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パズルゲーム感想アーカイブ

猶予なき敷設計画 “Cosmic Express”

【応募資格】
決して諦めない心を持つ者。一筆書きパズルは簡単であると豪語できる自信があれば望ましい。

盤面上に存在する全ての乗客を対応する色の箱のもとまで送り届けた後、次のプラットフォームに向かうトンネルに辿り着けるように列車の線路を敷くパズル。
一度レールを敷いた場所にレールを重ねることができないというその内容は純然たる一筆書きパズルである。

乗客と乗降に関するルールだが、乗客は隣接した4マスのどこかに空席の車両が来れば待つこともなく我先にと勝手に座り、列車に乗っている状態で対応する色の箱の隣接した4マスのどこかに来れば勝手に降りていく。乗客の種族は紫・橙・緑の3種類だが、緑の種族は一度乗車すると席を汚してしまうため、以降緑の種族以外がその車両への乗車を拒否するようになるというルールがある。
決まっているのは種族と箱の色の対応関係だけなので、どの順番で運ぶべきか、どういったルートにすべきかという大まかな構想はもちろんのこと、どのように乗客を拾い、どのように箱に降ろすかといった細かな内容に至るまで、見かけ上の選択肢は広く残されている。

しかし綿密に構成されたこの星の上では、一見実現可能なその構想の大半は通らない。このパズルに余白はほとんど存在していないのだ。
安直な考えで線路を敷けば、まず間違いなく街灯や植木鉢に道を阻まれるだろう。乗客と箱はそれぞれ塊で存在することが多いが、両者を直線的に結ぶだけではまず解決できない。
ならば塊から個別に切り崩す形で輸送すれば解決できるかといえばそうでもない。ここで重ね書き不可という一筆書きパズルのルールが生きてくる。
往復させるならばその分だけ後で使えるスペースがなくなっていく。またどの方向から乗客を拾いに行くか、つまり向きが重要になってくるのだが、方向転換にはその分の線路のリソースが必要なため、方向転換すればするほどスペースはなくなっていく。
既に固定した線路が邪魔になって思った手が通らず、ならばと固定した手を崩せばまた別の障害が立ちはだかる。これで解けた!と思っても、席順の関係で狙った通りに乗客が降りない、意図しない箱に吸い込まれた、ゴール前に箱が設置されているせいであと1マス足りないなど、解決すべきことがまだ残っていて実はここからが本番ということも少なくない。
先に進むにつれて乗客と対応する箱のセットは増え、車両の定員も複数になっていき、ねじれた配置が増え、それをほどくためのスペースは少なくなっていく。解決すべき複数の事柄を同時に解決できるルートの選定、それを実現可能な構想の検討など、広い選択肢に対して一度何かを決めてしまうと互いに手を狭め合うという、自由と制限が同時に存在しているがゆえのジレンマに苛まれることだろう。

このように、このパズルは思考の落とし穴とでも言うべき罠が幾重にも設置された非常に歯応えのあるものとなっている。一般的に一筆書きパズルが持つであろう、逆算が簡単という甘いイメージは一切存在しない。線路を敷けば敷くほどなくなっていくスペースに息苦しさを感じ、あれを試せどこれを試せどもあと一歩が届かない歯痒さを何度も何度も覚え、果ては本当に解けるのかどうかを疑うようにすらなる始末。そんな中、細い道筋の先にある正解に辿り着いた時の解放感はひとしおである。
ただしそれはルールの関係上、不可能なルートをひたすら排除するという試行の累積がもたらすので、問題への考察を一歩前に押し進める冴えた一手というのが目立ちにくく、ゆえにエレガントとは少し違うかもしれない。だがそれでもこのパズルが美しいことには変わりない。このパズルの美しさを表すならば「ストイック」といったところだろうか。

ギミックに依存するでもなく、盤面をいたずらに広げるでもなく、一つ決めたルールを詰め、レベルデザインのブラッシュアップを重ね、難しく美しいパズルを追究してくれたレベルデザイナーには頭が上がらない。
この作品は間違いなく一筆書きパズルのマスターピースと呼べるだろう。

関連項目

A Monster's Expedition + Earlier Adventures収録作品

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