クラシックな橋梁建設 “Bridge Constructor”
無資格建築士の記念すべき初仕事。
誰だって最初は初心者である。
予算内に収まるように各種部材を組み合わせ、一定台数の車両が渡りきれる橋を架けるパズル。
ストーリー上の名目は交通で不便な思いをしている島の住民のためのインフラ工事なのだが、渡りきれさえすればあとは壊れてしまっても構わない、とクリア判定は割と適当。
現実の橋には強度を確保するための工夫として様々なものがあるが、この作品では使える部材が単純化されたごく数種類にまで制限されているため、主に組み方の工夫で荷重に耐えるだけの強度を確保しなければならない。
マヌケは基本的な古典物理を習った程度で構造力学に関する体系的な知識なんてものはそもそも持ち合わせていなかった (なんとトラス構造すら知らなかった始末である) ので、どんな構造にすれば効率よく強度を確保できるのか、どの桁が重要かそうでないかなどはほとんどトライアンドエラーによる経験と感覚で学んでいった。
振り返って考えてみると、このプロセスは積み木遊びそのものだった。一から建造物を作り上げる創造性、崩れない構造を組むための考え方やバランス感覚の学習、物理法則に対する知的好奇心の刺激など、この作品の面白さは積み木遊びがなぜ楽しいのかという問いと共有している答えがあるだろう。
慣れてしまうと実績として残ったテンプレ的な安定構造の組み合わせに収束してしまうし、微調整に要する試行回数の多さに反してシミュレーションの再生速度が変えられないという結構大きな不満点も存在するのだが、それでも最後まで楽しくプレイすることができた。
パズルとして問題を解くだけならばあっさり終えられるが、絶妙な予算制限とタンクローリーの存在によって見た目のデザインと運用上のデザインとがトレードオフになっているため、美しい橋を架けようとすると思い通りにはいかないものである。
ゲームではオミットされているが、現実の橋梁設計においては基礎やアンカーの強度、水流や風といったy軸方向の作用も含めた3Dでの強度計算、耐用年数など本来ならば考慮しなければいけないことが山のように存在する。
単純化されたゲームですら橋を架けるのに苦労していると、安全性を満たしながらシンボルとして街の風景に溶け込んでいる現実の橋がいかにうまくできているかがよくわかる。
真に設計者の道を目指すならば厳密な理論を学ぶ必要があるだろうが、橋の奥深さの一端に触れるだけならばこの作品だけでも十分に満たすことができるだろう。
追記
DLCで追加されるSlopemania・Trainsの全てのステージでもタンクローリー・貨物列車込クリアしたのでそれについて追記。道路に傾斜が付き荷重のかかり方が特殊になったSlopemaniaに、通行車両が長大になったTrainsだがどちらも本編以上に難しかった。
Slopemaniaは傾斜と経由点の設定によって非線形の橋を造らざるを得ないのだが、これが大幅に狂った問題は当然難しいがそれは見た目通りの難しさであり想像以上に難しいわけではない。
たった少しの誤差が大きく計算結果を変えてしまうことがあるように、真に一番難しいのは線形からわずかにずれた非線形だというのを強く実感した。
荷重のかかり方が特殊なため美しい橋の造りにくいルールではあるが、正しい知識を有していればそこそこ綺麗な橋を造るのは不可能ではないだろう (ただし高低差の激しいステージを除く)。
Trainsはただタンクローリーが長大になっただけではない。車両の通過による荷重の軽減という逃げ道が塞がれたということは、同時にガラクタ橋クリアを封じられたということでもある。
このルールの設計思想は、つまり静荷重がフルにかかっても壊れない橋を作れということだ。
橋のひずむ様は本編とは比べ物にならず元に戻らないのではないかと錯覚してしまいそうになるほどだった。材料力学に対して中途半端な理解で橋を架けるとどうなるかが明確に可視化されるので、見た目こそ地味ながらも面白いルールだった。
追記
今日に至るまでに季節限定ステージのEaster Islands・Spooky Islands・Winter Worldについてクリアしたが、Slopemaniaの易化問題集と言ってもいいような内容だった。
わざわざ季節限定にする意味はあったのだろうか?やり直したいときにやり直せないというのは手間だろうに。仕様からして時計をずらせばいつでもプレイできるのだろうけど、そこまで急ぐほどの価値があるようにも感じられなかった。
季節感だけはたっぷりだけど、所詮は外面を取り替えただけでしかない。
追記
アップデートが入っていたので動作確認しようとしたら、“Sun Marino” なる謎の問題集が新たに追加されていた。マイナーアップデートの説明とはまるで違う大規模なアップデートであること、いかにも夏季限定な問題集なので夏の大規模アップデートに向けて温めていたものを誤って追加してしまったという感じなのかもしれないが、遊べてしまったのでそれに関する追記。
この問題集でやることはウォータースライダー造りである。高度の違うチェックポイントを全て通過してからゴールに向かうという大枠はSlopeManiaに近いが、ウォータースライダーという全く違うモチーフの導入によってその中身は全く違ったものになっている。
橋と車両でたとえるならば、摩擦の小さな路面で馬力0の車両を重力だけを頼りに右に左に滑り落とすというものである。
落下の衝撃を和らげる方法や前後する順番への対処、詰まりの解消など、シリーズ作品を通しても初めての枠組ばかりで新鮮だった。
しかしながら、モチーフとルールの融合はあまりうまくいっているようには見えない。
順番を守らずに間隔を詰めて滑り出したり、浮き輪ごとひっくり返ったままスライダーを滑ったり、ゴールとなるプールが狭すぎるなど、現実で運用するにはあまりにも恐ろしい。
問題数が少ないながらもパズルとしての可能性は感じられるものの、モラルの改善なくして気持ちよく解くことは難しそうである。
それにしても、Bridge Constructorシリーズの元祖たるこの作品でとうとう橋造りを離れてしまったということは、このシリーズで静的な橋造りはもはや絶望的なのだろう。なんとも切ない。