ブラック企業協賛の橋梁建設 “Bridge Constructor Portal”
無資格建築士、Aperture Scienceに転職。
パズル好きには憧れの有名企業だが、実はマヌケはその実情を知らないでいる。
橋架け物理演算パズル “Bridge Constructor” が不朽の名作パズルゲーム “Portal” と融合。今作はコラボを称したハリボテや水増しなどではなく、今までのBridge Constructorシリーズとは一線を画す全く新しい橋架け物理演算パズルとなっている。
とはいえ、パズルの奴隷を自称するマヌケだが実はPortalシリーズは未プレイである。非常に有名な作品なので多少知っていることはあるが、その内容は “The Cake is a Lie” は知っていても、その言葉が出てきたシチュエーションや本当の意味については全く知らないなど、とにかく表面的なものでしかない。
この感想はおそらく少数であろう、Bridge Constructorシリーズは全てクリアしているがPortalシリーズは全く知らない一プレイヤーとしてのものであり、Bridge Constructorシリーズの中での比較になること、この作品がどれだけPortalのエッセンスを汲めているのかは拾えないことを先に断っておく。
このパズルのクリア条件は、今まで通り勝手に走行する車両群を全てゴールまで辿り着かせることである。
ただし盤面の構造はMedievalまでのシリーズ作品であったような1次元的な直線ではなく、Stuntsのような上下左右の2次元的な平面になっている。
Medievalにあった車両に危害を加えるギミックや、Stuntsにあったジャンプ台などを利用しての曲線的な走行経路の実現など、過去に新しい試みとして取り入れたはいいものの詰めきれていなかった要素も取り入れられていて、しかも今作でそれらはしっかり融合している。
要素だけ拾い上げるとシリーズの集大成だが、その結果としてパズルの内容は過去の作品とはかなり異なったものとなっている。
Stuntsを除く今までの作品の目的は壊れない建造物の建築だったが、今作において建築そのものは手段に過ぎない。ゴールまでの道のりは道路さえ繋がればいいような単純なものではなく、危険を排除する建造物を作ったり、ギミックを作動させて塞がった扉を開放させたりして安全な経路を確保しなければならない。
シリーズの中でもStuntsと並んで静的な橋架けの趣向が薄い今作だが、自動的にゴールまで辿り着ける動線を作るという内容はルートの設計と設計上のねじれの解消を考えるというまた別のパズルであり、今までよりもパズルの本質により近いものを要求している作品であると言える。
動線を作るパズルとして安直なアイデアを潰しより複雑にするためのギミックはPortal側よりふんだんに提供されている。フォークリフトのベクトルを方向転換どころか反転さえしてしまうお馴染みポータル、タレットやレーザーといったルートや建築を制限するギミック、それらの位置を変えるスイッチやそれを押すためのコンパニオンキューブ、他にも反発する床や加速する床などがあり、あるルートを選べばこのような障害が、またあるルートを選べば別の障害が立ちはだかりと、それぞれのギミックは互いに干渉し合う何かが出てくるように配置されているため、ゴールまでの経路を考えるのは容易ではない。
そしてこのパズルの本番は複数のフォークリフトが絶えず排出され続ける車列ルールである。車列は固定周期で配置されるため一台分の動線を作るだけは不十分で、互いに干渉しないよう周期に合った動きを乱さず行えるようにする必要がある。一本の動線が交差するポイントで先行車両が後続車両とぶつかってしまったり、複数の動線の同期がうまくいかず詰まってしまうというルート設計の問題もあるが、このルールにおいて牙を剥くのはBridge Constructorシリーズに由来する物理演算がもたらすずれである。
今作は今までのシリーズ作品と違うパラメータが設定されているようで、重力が弱いのかフォークリフトはふわっとした軌道を描く他、部材はばねが仕込まれているのかのごとく大きく歪む。その結果、通過するフォークリフトごとに与える影響が変わり、速度が噛み合わなくなったり、空中に放り出された車体の着地時の向きが揃わず詰まってしまったりする。当然強度もあるため、そもそも複数のフォークリフトの荷重に耐えられるだけの強度がなく崩落してしまったりと基本的な橋梁建設の知識が必要なのはもちろんのこと、フォークリフトを連続で受け止めたことで歪みが大きくなり座屈したりと今作の部材特有の挙動への対策も必要となる。
今作の使用可能な部材は板とケーブルの2種類だけでしかも今作のケーブルはかなり弱いので、強度確保にも工夫が必要になってくる。乱暴にトラスを重ね合わせて強引に強度を得るお馴染みの方法も使えるが、時には一から設計をやり直したほうが楽になる時もある。足場ではなくルートすらも組み替えるべきものの選択肢として候補に挙がるのは今作ならではだろう。
ルールも設計思想も全く違うパズルでありながら、このように構造計算の知識が求められ、橋梁建設の経験が生きるあたりは間違いなくBridge Constructorシリーズのエッセンスを汲むものだった。
予算制限がなくなってしまったのが少々残念なところだが、今までのシリーズとは違ったパズルであること、難易度が上がりすぎてしまいかねないこと、予算からルートが逆算されるおそれがあることなどを考えるとやむを得ない判断だっただろう。
手段としての橋架けでありながらもStuntsと違ってきちんとパズルとなった今作もまた楽しませてもらったが、やはり私が好きなのは積み木遊び、静的な橋架けのほうである。
このシリーズは停滞を認めず新しいスタイルを模索し続けようとしているようなので、もう私の好きなクラシックな橋架けは望めなさそうでほんのり寂しい思いもあるのだが、それでも私はその姿勢を支持したい。今作の面白さは保守的で居続けていたならば得られなかっただろう。
追記
このパズルにおいてポータルは位置および対応が固定だったが、これらを自由に配置できる問題集 “Portal Proficiency” がDLCとして追加された。本編でポータルの位置を動かしたいと思ったことはそういえば一度もなかったなあ。
ポータルを動かせるからといって動線の数が変わるわけではなく、その引き方が相対的に変わるだけだから難しくはなれど面白くなったかというと疑問が残る。
難しかった問題は総じて制限事項が多く、どんなに複雑そうなギミックを組んだところでこちらの手段に自由を与えられるほど簡単になるのは残念なところである。やはり試行の手段そのものを縛る制限は強い。
本編ではポータルの位置に応じてルートを決めて足場を組んでいたけど、ポータルが動くということは足場が不要になるということでもあるから、極端に言えば位置を固定して足場を組ませるか、建設を制限してポータルの対応を探らせるかの二択になるんだろうか。どちらのポイントも押さえながら難しくする方法が思いつかない……。
あと、やはりポータル操作は負荷がかかるのか、挙動がだいぶ重くなっていたのも気になった。
パズルの内容には関係のないことだけど、毒舌建築インストラクター・GLaDOS姐さんが一切出なかったのは寂しいものだった。彼女の歌うような機械音声がまた聴きたかったのになあ。
Portal未プレイの人間ですら姐さんの不在を嘆いてしまうあたり、本編がいかにPortalファンに向けて丁寧に作りこんであったかがわかる。パズルの内容さえ十分ならば外面なんて関係ないと普段思っているようなマヌケでも、世界観や雰囲気を作り込むことの意味を痛感してしまった。
このモードは悪い意味で機械的だった。考えることはたくさんあったし、難しくもあった。だが、本編ほど面白くはなかった。